| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 治療内容 | 感染根管治療 |
| 年齢 | 30代 |
| 性別 | 女性 |
| 期間 | 5か月(3か月の治療経過の確認含む) |
| 費用(税込) |
感染根管治療 110,000円 根管治療・再診料 3,300円(2回) 土台の作製 11,000円 最終修復 44,000円 合計 171,600円(2023年当時) |
| リスク・副作用 |
・年数が経つと、徐々に変色してくることがあります。
・根管治療をした歯は、歯の壁が薄くなっているため、根元から割れてしまう(歯根破折)リスクが高まります。 |
1. 患者さんのご紹介(主訴・お悩み)
他院で治療を受けていたものの、歯に痛みや違和感がありお悩みだった30代の女性の患者さんです。
ご自身でホームページを探して、当院へご来院されました。患者さんご本人は日頃のケアをとても頑張っていらっしゃり、お口の中は比較的きれいな状態に保たれていました。
しかし、過去の治療部位に不適合がみられ、それが症状に関係しているようでした。
2. ご来院時の状態と診断
お口の中全体をチェックしたところ、レントゲン写真で根の先に炎症のある根尖病変(こんせんびょうへん)が確認できました。
また、他院で行われた詰め物の状態がよくなく、隣の歯とくっついてしまっている状態でした。そのため、歯間部にデンタルフロスが入らないという問題も生じていました。


過去の治療部位に不具合が生じ、根の先に炎症が広がっていることなどから「根尖性歯周炎」と診断いたしました。
歯の根の先端部分にまで細菌が感染し、膿の袋ができる病気です。神経が死んでしまった歯や、過去に根の治療を行った歯に再感染が起きることで生じ、放置すると痛みが強くなったり骨が溶けたりすることがあります。
3. 治療計画
今回の問題が見つかった左上4番の歯だけでなく、他にもむし歯治療や、根管治療が必要な歯など、お口の中に複数の問題を抱えていることが分かりました。
当院では、左上4番の根管治療は、短期集中で一気に根管充填や被せ物の治療まで終わらせ、後に問題が起これば根尖切除などの外科処置を行うという方法ではなく、左上4番の根管治療を開始する前の準備として、隔壁を日常生活で問題ない形態まで作製することにより、3か月の経過観察をすることとしました。その間、他部位のむし歯治療や、根管治療を進めることができます。左上4番の根尖部に治癒傾向が確認できた後、根管充填を行うこととしました。そのうえで、健康な歯質をできるだけ残すため、ダイレクトボンディングによる修復を行う計画としました。失われた部分のみ詰め物で元の歯の形態を復元するダイレクトボンディングが適応できるかどうかは、根管治療前にお口全体の噛み合わせを確認したうえで判断します。
根管治療や歯の形態を直接口腔内で作製するダイレクトボンディングは、ラバーダム防湿を使用し処置時間が長くなる場合があるため、患者さんのあごの疲れやすさや心理的な負担を事前に確認します。そして個々の患者さんの状態を考慮した柔軟な治療計画を立てています。
4. 治療時
治療は2023年に実施いたしました。具体的な治療の流れは以下の通りです。
①古い詰め物とむし歯の除去
まずは、不十分な状態であった古い詰め物と、内部に広がっていたむし歯をきれいに除去しました。

②ラバーダム防湿と隔壁の作製
隣の歯との間に歯科用レジンで「隔壁(かべ)」を作製しました。この隔壁は、最終的な詰め物として使用することも想定して作製しており、見た目や清掃のしやすさにも配慮しています。その後、根管の拡大清掃を行い、根管消毒の薬を入れて仮の蓋をしました。

③約2週間後、続きの処置
根管長測定器で歯の根の長さを測定した後、根管内の感染を除去するための根管拡大・洗浄と、根管充填を適切に行うための根管形成を実施しました。いずれの処置においても将来の歯の寿命を考え、可能な限り歯質の切削を抑えて行いました。根管は根尖付近で大きく湾曲しており、さらに根の先端部分が大きく開いている状態だったため、水酸化カルシウム製剤を貼薬し治癒経過を観察することにしました。この期間中は、他の歯の治療を並行して進めました。
④根管充填と修復
3か月の経過観察後にレントゲンを撮影し、病変が小さくなり、治癒傾向にあることを確認しました。その2週間後に根管充填を実施しました。根の先が広く開いていましたが、時間を置いたことで根尖部が自分自身の「硬組織」によって自然に封鎖されていたため、特殊なセメントは使わず、一般的に用いられる充填材で対応しました。

⑤ダイレクトボンディングによる即日修復
根管充填を行った同じ日に、土台を作り、噛み合わせ部分の形態もレジンで修復するダイレクトボンディングを行って治療を終了しました。

根管治療を行う際に歯の周りにゴム製のシートを張り、唾液や細菌が根管内に入り込むリスクを抑えるための処置です。ダイレクトボンディング時にも使用し、口腔内の湿潤環境から隔離することにより、乾燥状態で接着修復が可能となるため、接着しやすい環境を整えることにつながります。治療中に唾液や細菌が入り込みにくい環境を保つために用いられる方法です。また、治療時の水などが喉の方に行かないため、慣れると治療時に眠られる方も多くお見えになります。
むし歯などで歯が大きく欠けている場合、根管治療時に薬液が漏れたり唾液が入り込んだりするリスクを抑えるために、プラスチックなどの素材で歯の周りに一時的に作る人工の壁のことです。 当院では、歯の形に近づけるよう作製するため、清掃性や最終修復にもそのまま利用可能です。
根管治療によってきれいになった歯の根の中にある管を、細菌が繁殖するスペースをなくすために、専用の材料で緊密に塞ぐ処置のことです。
5. 治療後・予後


治療から2年半が経過した後のレントゲン確認では、根の先にあった影(透過像)がなくなっており、治癒の状態が維持されています。あえて時間を置いて経過を見たことで、根の先が人工物ではなく自然な硬組織による封鎖が確認され、経過は安定していました。
また、将来もし上部のレジンに問題が起きても再感染のリスクに配慮し、根管充填材と土台の間に一層のセメントバリアを敷く工夫も施しています。これは将来的に材料の露出によって細菌が入り込みにくくするための工夫です。再治療による治療の繰り返しは歯の寿命に影響を及ぼすため、再治療のリスクをできるだけ抑えられるよう配慮しながら治療を行っています。
今回の歯は被せ物にせず、レジンによるダイレクトボンディングで治療を終えています。歯ぎしりなども含めて噛み合わせの確認時に、犬歯の機能が十分に働いているかやお口全体の力のかかり方、残っている歯の厚みや傾斜角度などを細かくチェックし、レジンによる修復が可能かを確認しました。将来もし欠けたり変色する場合でも、その部分だけを磨いたり盛り足したりすることにより、天然の歯を削らずに修理ができることが大きな特徴です。
神経を取った歯に過度な負担がかからないよう配慮するため、単にカチカチと噛み合わせるだけでなく、硬いものや大きいものを食べるときを想定し、あごを大きく前後左右に動かした際の負担にも配慮しながら、噛み合わせの調整を行っています。
当院では、患者さんのお口の将来を見据え、一人ひとりの状態に合わせた歯の寿命を考えた丁寧な治療を行っています。歯の違和感や過去の治療のやり直しでお悩みの方は、セカンドオピニオンで様々な治療方法や利点欠点を相談することが可能です。
監修:歯科医師・院長 堀 雅晴
【経歴】
朝日大学 歯科保存学分野 所属
専門:歯内療法学:エンドドンティスト)
・歯の神経の治療(神経の保存を含む)
・助教(2008〜2019)
・非常勤教員(2020〜)
中部歯内療法学会 理事(2010〜2019)
大学の専門治療と並行して、愛知・岐阜・福井の歯科医院にて勤務
【主な年間セミナー受講歴】
・藤本研修会 歯内療法学コース
(スウェーデン王立イエテボリ大学公認歯周病・歯内療法専門医)
・歯周病学コース
(スウェーデン王立イエテボリ大学公認歯周病専門医)
・藤本研修会 咬合・補綴コース
(アメリカ インディアナ大学 米国歯科補綴専門医)
・藤本研修会 LOT(部分矯正)コース
(アメリカ ウェストバージニア大学 MOS顎関節学)
・EPSDC イエテボリ大学 診断学コース
(スウェーデン王立イエテボリ大学公認歯周病・歯内療法専門医)
・EPSDC イエテボリ大学 矯正学コース
(スウェーデン王立イエテボリ大学 MOS矯正学)
藤本研修会 https://www.fujimoto-kensyukai.com
EPSDC https://epsdc-course.instatry.jp
【所属学会】
日本歯科保存学会 http://www.hozon.or.jp
日本歯内療法学会 https://jea-endo.or.jp
日本歯周病学会 https://www.perio.jp
日本顕微鏡歯科学会 https://kenbikyoshika.jp
【資格など】
歯科医師
日本歯科保存学会 専門医 http://www.hozon.or.jp/list
歯科医師臨床研修 指導医
第二種滅菌技士試験合格(日本医療機器学会)
